この記事でわかること
1. 親が認知症になると、なぜ家族でも預金や不動産を動かせなくなるのか(「資産凍結」の正体)
2. 元気なうちに使える備え(任意後見・家族信託・代理人カード)と、発症後に残る唯一の選択肢(法定後見)の違い
3. 30〜40代の子世代が、まず今日から確認しておきたい3つのこと
「うちの親はまだ元気だから」と思っていませんか
「親の通帳の場所も暗証番号も知らない」
「いざとなれば、子どもの自分が代わりに手続きできるはず」
「認知症になったら、そのとき家族で考えればいい」
こんなふうに考えている方は、とても多いと思います。日々の仕事や子育てに追われていると、親のお金の話を切り出すのは、なんだか気が引けるものですよね。その気持ち、よくわかります。
ただ、実際にご相談に来られる方の多くが「もっと早く知っておけば」とおっしゃるのも、また事実です。今日はその理由を、公的なデータをもとに一緒に見ていきましょう。不安をあおりたいのではありません。むしろ「元気な今だからできることがある」とお伝えしたいのです。
データで見る、認知症はもう”特別なこと”ではない
まず確認したいのは、認知症がもはや特別なことではない、という事実です。
厚生労働省の研究班が2024年5月に公表した推計によると、2022年時点の認知症の高齢者は約443万人(高齢者の約8人に1人)。さらに、その前段階とされるMCI(軽度認知障害=物忘れは増えるが日常生活はおおむね自立している状態)が約559万人います。
2040年には、認知症が約584万人、MCIが約613万人と見込まれ、合わせると高齢者の約3.3人に1人に達するとされています(出典:厚生労働省、2024年)。
そして、認知症になった方が持つ金融資産は、2018年の第一生命経済研究所の試算で2030年度に約215兆円、家計金融資産の約1割にのぼるとされています(※やや古い2018年時点の試算ですが、規模感の参考として)。
つまり「親のお金が動かせなくなる」のは、決してまれな話ではないのです。
FPの視点で整理する「資産凍結」とは何か
ここで「資産凍結」という言葉を整理しておきます。
判断能力が低下したと金融機関が確認すると、本人保護のために口座が事実上ストップします。家族であっても、原則として預金の引き出しや解約、不動産の売却、証券の運用ができなくなる──これが「資産凍結」です。
「家族なんだから代わりにできるはず」と思われがちですが、銀行から見れば、たとえ子どもでも「本人の意思を確認できない取引」は受けられない、というのが原則です。2021年に全国銀行協会が、医療・介護費など使途が明確な場合に柔軟対応する余地を示しましたが、これはあくまで例外的で、対応は銀行ごとにバラバラです。
一般的な目安として、FPの視点では「お金は本人のもの。本人の意思が確認できなければ動かせない」という大原則を、まず家族で共有しておくことが大切です。もちろん、ご家庭によって資産の内容も家族構成も違いますので、考え方は変わります。
モデルケースで見る「もし、何も備えていなかったら」
具体的にイメージしてみましょう。
【設定】長男・健一さん(38歳・会社員)/父・70歳/母・68歳
父の資産:預金1,500万円、実家(評価額2,000万円)、合計約3,500万円。
ある日、父が認知症と診断され、口座が凍結されたとします。母の生活費や父の介護費用を父の預金から出そうとしても、銀行で止められてしまう。実家を売って介護施設の費用にあてたくても、本人が売買契約できないため売却もできません。
この状態で家族が取れる手段は、家庭裁判所に法定後見(後述)を申し立てること。後見人がつけば手続きは進みますが、後見人には専門職(司法書士・弁護士など)が選ばれることが多く、報酬が継続して発生します。大阪家庭裁判所の目安では、財産2,000万円規模で月3〜4万円。年間36〜48万円、それが父が亡くなるまで続くと、10年で360〜480万円ほどになる計算です。
※費用はあくまで目安です。財産規模や事情、お住まいの地域・依頼先の事務所によって異なります。また将来、制度が改定される可能性もあります。
大切なのは、金額そのものよりもバランスです。判断する前に、家族全体の資産とこれからのライフプランを見ておくことが大切です。
よくある誤解・注意点(3つ)
誤解1「家族なら親の口座から引き出せる」
こう思っている方が多いですが、実は原則できません。前述のとおり例外的な柔軟対応はありますが、当てにできるものではありません。
誤解2「認知症になってからでも何とかなる」
発症後に新しく使えるのは、実は法定後見の申し立てだけ。任意後見・家族信託・代理人カードは、すべて「元気なうち」限定の備えです。
誤解3「後見人をつければお金を自由に使える」「後見人は家族がなれる」
実は逆で、後見制度は財産を「減らさない」保全が目的。家族のための柔軟な支出(贈与や援助)は原則できません。また後見人は親族以外(専門職等)が選ばれる割合が82.9%で、家族がなれるとは限りません(出典:最高裁判所、令和6年)。
確認してほしい3つのポイント
- 親の資産の「全体像」をざっくり把握する ── どの銀行・証券会社に、おおよそどれくらいあるか。実家の名義は誰か。一覧にするだけで第一歩です。
- 元気なうちに使える3つの選択肢を知っておく ── 「任意後見」「家族信託」「代理人カード」。それぞれ得意分野が違います(下の表をご参照ください)。
- 親と「お金の話ができる関係」を今のうちに作る ── いきなり契約の話ではなく、「もしものとき、どうしたい?」という会話から。
| 備え | いつ使える | 得意なこと | 費用の目安 |
|---|---|---|---|
| 代理人カード・代理人指定 | 元気なうち | 日常の入出金の補助 | 無料〜少額 |
| 任意後見 | 元気なうちに契約 | 財産管理+介護・医療の手続き(身上監護) | 発効後に報酬負担が続きやすい |
| 家族信託 | 元気なうちに契約 | 不動産を含む財産管理・承継 | 初期50〜100万円程度 |
| 法定後見 | 認知症の発症後 | 発症後に残る唯一の手段 | 月2〜6万円が継続 |
※「身上監護」とは、介護サービスや入院の契約などを本人に代わって行うこと。家族信託では対象外です。
※「代理人カード・代理人指定」は銀行によって名称・利用できる範囲が異なります。解約・名義変更・高額の出金など、本人の意思確認が必要な手続きには使えません。
※費用はいずれも目安です。財産規模やご家庭の事情、依頼先により異なり、将来の制度改定で変わる可能性もあります。
まとめ──元気な今だからできることがある
- 親が認知症になると、家族でも預金・不動産を動かせなくなる「資産凍結」が起こり得ます。
- 元気なうちなら任意後見・家族信託・代理人カードと選択肢があり、発症後は法定後見のみ。備えのほとんどは「今」しかできません。
- まずは親の資産の全体像を知り、家族で話せる関係をつくることが第一歩です。
実は、任意後見が実際に使われている件数は年間874件ほどで、制度全体のわずか約2%にとどまります(出典:最高裁判所「成年後見関係事件の概況」令和6年)。多くのご家庭が「備えないまま」発症後の法定後見にたどり着いているのが現状です。だからこそ、知っているだけで選択肢が大きく広がります。
まず気軽に情報収集したい方は、公式LINEでFPの発信を受け取ってみてください。
具体的に「うちの場合はどうすれば?」と整理したい方は、無料相談 でご家庭の状況を一緒に見える化していきましょう。
あわせて読みたい関連記事として、ハブ記事「親の終活、子世代がまず何をすべきか」や「親のスマホ、開けますか?デジタル終活」もご覧いただくと、全体像がつかみやすくなります。
のどかFP事務所からの一言
私たちは保険や金融商品を販売しない、完全独立系のFPです。だからこそ「どの制度が正解」と決めつけるのではなく、ご家庭ごとのバランスを一緒に考えたいと思っています。
認知症の備えは、親を疑うことでも、縁起でもない話でもありません。むしろ「元気なうちに、家族で未来を見える化しておく」という、とても前向きな準備です。
あなたのご家庭では、もし親御さんの判断力が少し弱くなったとき、お金のことを誰に、どんな思いで引き継いでいきたいでしょうか。その問いを家族で話してみることから、始めてみませんか。
出典一覧
- 厚生労働省「認知症及び軽度認知障害の高齢者数と有病率の将来推計について」(2024年5月公表)
- 第一生命経済研究所「認知症患者の金融資産200兆円の未来」(2018年試算)

- 最高裁判所「成年後見関係事件の概況―令和6年1月〜12月―」(2025年3月公表)
- 大阪家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」(令和4年2月)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の制度・商品の利用を推奨するものではありません。記載の費用・数値は目安であり、ご家庭の状況や依頼先、また将来の制度改定により変わる可能性があります。具体的なご判断は専門家にご相談ください。


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