【事例】遺言が、残された妻を守る ―― 子のいない夫婦が「家」と「預金」を確実に残すために

目次

この記事でわかること

  • 子のいない夫婦では、配偶者と「兄弟姉妹」が相続人になること(その仕組みと割合)
  • 遺言がないと、残された妻が「家を手放す」事態になりかねない理由
  • 遺言と「信頼できる遺言執行者」があれば、話し合いをせずに淡々と手続きが進むこと

「全部、妻に残るはず」――その思い込みに、見落としがあります

「うちは子どもがいないから、私が亡くなっても財産は全部、妻のものになる」

そう考えている方は、とても多いです。気持ちとしては当然ですし、ご夫婦で築いてきた家や預金ですから、そう思うのは自然なことだと思います。

でも、ここに大きな落とし穴があります。

子どものいないご夫婦の場合、法律上は 配偶者だけが相続人になるわけではない のです。今回は、ある事例をもとに「遺言が、残された妻をどう守るのか」を一緒に見ていきます。

※登場する人物・設定は、実際のご相談で起こりうる状況をもとにした架空のモデルケースです。


モデルケース:佐藤健一さん(68歳)・恵子さん(65歳)ご夫婦

  • 夫:健一さん 68歳。長年勤めた会社を退職。8人きょうだいの長男。
  • 妻:恵子さん 65歳。お子さんはいません。
  • 主な財産:ご夫婦で暮らす自宅(評価額 約2,000万円)と預金 約1,500万円。

健一さんには存命のきょうだいが6人、すでに亡くなったきょうだいが2人。亡くなった2人には、それぞれ子ども(健一さんから見て甥・姪)が合わせて4人います。

もし健一さんに万一のことがあったら――相続人になるのは、妻の恵子さんと、6人のきょうだい+4人の甥姪、あわせて10人 です。


公的な仕組みの確認:なぜ「兄弟姉妹」が出てくるのか

相続人の範囲と割合は、民法と国税庁の説明で確認できます。

子どもがいない夫婦で、親もすでに亡くなっている場合、相続人は 配偶者と兄弟姉妹 になります。割合(法定相続分)は、配偶者が 4分の3、兄弟姉妹が全員あわせて 4分の1 です(国税庁「相続人の範囲と法定相続分」)。

さらに、兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合は、その子(甥・姪)が代わりに相続人になります。これを 代襲相続 といいます。健一さんのケースで「甥姪もあわせて10人」となるのは、このためです。

つまり遺言がないと、恵子さんは 自宅と預金を、この10人と分け合う前提 からスタートすることになります。


遺言がないと、何が起きるのか

遺言がない場合、誰がどの財産を受け取るかは、相続人 全員の話し合い(遺産分割協議) で決めなければなりません。

恵子さんのケースでは、協議には 10人全員の合意と署名・実印 が必要です。1人でも反対すれば、話は前に進みません。

ここで現実的に起きやすいのが、こんな状況です。

財産の大半が「自宅」という、分けにくい形になっている。きょうだいや甥姪が「自分の取り分(4分の1)を現金でほしい」と求めると、恵子さんは支払うためのお金が手元にない。結果として、長年住んできた家を売って現金をつくる――そんな選択を迫られることがあるのです。

悪意がなくても、人数が多いほど連絡や合意は難しくなります。遠方に住む甥姪と面識がないことも珍しくありません。


遺言があれば、どう変わるのか

ここで大きな力を持つのが「遺言」です。ポイントは2つあります。

① 兄弟姉妹・甥姪には「遺留分」がない

遺留分とは、一定の相続人に法律上保障された最低限の取り分のことです。ただし、兄弟姉妹(およびその代襲である甥・姪)には、この遺留分がありません国税庁「相続人の範囲と法定相続分」、民法第1042条)。

これはとても重要です。健一さんが「すべての財産を妻・恵子に相続させる」という遺言を残しておけば、10人のきょうだい・甥姪から「取り分をよこせ」と請求されることはないのです。家を売る必要もなくなります。

② 信頼できる「遺言執行者」を決めておける

遺言には、内容を実現する役割を担う 遺言執行者 を指定できます(政府広報オンライン「遺言書のこと」)。

執行者がいれば、名義変更や預金の手続きを、相続人どうしで顔を合わせて話し合うことなく 淡々と進めてもらえます。残された恵子さんが、10人に一人ずつ連絡して頭を下げる――そんな負担を負わずにすむのです。


よくある誤解・注意点

誤解①「子どもがいなければ、自動的に全部配偶者のもの」

→ 実際は兄弟姉妹・甥姪も相続人です。遺言がなければ全員での話し合いが必要になります。

誤解②「遺言は、財産が多い人だけのもの」

→ 財産の中心が「自宅」のように分けにくい場合こそ、遺言の効果が大きく出ます。

誤解③「とりあえず書いておけば大丈夫」

→ 形式の不備で無効になることもあります。公正証書遺言や、法務局の自筆証書遺言書保管制度を使うと、紛失・改ざんの心配が減り、手続きもスムーズです(法務省・法務局)。

なお、配偶者が財産を受け継ぐ場合、相続税には 1億6,000万円(または法定相続分)まで非課税 という「配偶者の税額軽減」もあります(国税庁「配偶者の税額の軽減」)。恵子さんのケースなら、税負担の心配はまず小さいといえます。


確認してほしい3つのポイント

  1. ご自身に「子ども・親」がいない場合、誰が相続人になるか書き出してみる(きょうだい・甥姪まで含めて)
  2. 財産のうち「分けにくいもの(自宅など)」がどれくらいの割合かを確認する
  3. 「誰に・何を・誰の手で」残したいかを、一度ご夫婦で言葉にしてみる

まとめ+次のステップ

最後に要点を3つ。

  • 子のいない夫婦では、配偶者だけでなく兄弟姉妹・甥姪も相続人になります。
  • 遺言がないと、残された配偶者が「家を手放す」事態にもなりかねません。
  • 兄弟姉妹・甥姪には遺留分がないため、遺言があれば財産を確実に配偶者へ。執行者がいれば手続きも淡々と進みます。

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遺言と聞くと、少し重たく感じるかもしれません。でも本当は、遺言は「残されたひとへの、最後の思いやりの手紙」でもあります。

あなたがいちばん守りたいのは、誰ですか――そのひとに、何を、どんな形で残したいですか。その問いを、いっしょに言葉にしていけたらうれしいです。


出典

  • 国税庁「No.4132 相続人の範囲と法定相続分」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4132.htm
  • 国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4158.htm
  • 政府広報オンライン「知っておきたい遺言書のこと」 https://www.gov-online.go.jp/article/202009/entry-7835.html
  • 法務省・法務局「自筆証書遺言書保管制度のご案内」 https://houmukyoku.moj.go.jp/mito/page000001_00041.pdf
  • 民法第1042条(遺留分の帰属及びその割合)

※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の法務・税務上の判断を保証するものではありません。具体的な手続きは、状況に応じて専門家にご確認ください。

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