贈与税と相続対策の基本｜FPが教える生前贈与の始め方

第1章：贈与税の基本を理解しよう — 5つの重要ポイント

相続や贈与の話題になると、「なんだか難しそう」「自分には関係ないかも」と感じる方は少なくありません。
でも実は、ちょっとした“贈り物”でも贈与税の対象になることがあるんです。
ここでは、贈与税の基本を5つのポイントで、やさしく整理してみましょう。

① 贈与税とは？ ― 相続税を補完する仕組み

贈与税とは、「個人が他の個人から財産をもらったとき」に課される税金です。
この税は、生前に財産を移して相続税を逃れる行為を防ぐために設けられています。
たとえば、もし贈与税がなければ、誰もが亡くなる直前に全財産を家族へ渡して“相続税ゼロ”にしてしまいますよね。
そうならないように、贈与税は“相続税の補完税”としての役割を持っています。

② 誰が納税する？ ― 支払うのは「もらった人」

贈与税の納税義務者は、財産をもらった人（受贈者）です。
「お金を渡した側が払う」と誤解されがちですが、これは逆。
もし贈与者が代わりに税金を支払うと、その支払分まで“新たな贈与”とみなされ、さらに課税されることもあります。

③ 贈与税の対象になるもの・ならないもの

課税対象となるのは、金銭や不動産、株式などの「経済的価値のあるもの」。
一方で、次のようなものは非課税です。

• 生活費や教育費（必要な都度の支払い）
• お祝い金や香典など、社会通念上妥当な範囲の金銭

④ 贈与税の計算方法 ― 3ステップで理解

1️⃣ その年の1月1日〜12月31日までに受けた贈与を合計
2️⃣ そこから基礎控除額110万円を差し引く
3️⃣ 残りの金額に税率をかける

たとえば、200万円をもらった場合：
200万円 − 110万円 ＝ 90万円（課税対象額）
この90万円に応じて、税率（10〜55%）をかけて計算します。

⑤ 申告と納税のルール ― 期限を守ることが最大の節税

贈与を受けた年の翌年2月1日〜3月15日までに申告・納税が必要です。
現在は、e-Tax（電子申告）やスマホ納付なども可能で、手続きも便利になっています。
もし期限を過ぎてしまうと「無申告加算税」「延滞税」がかかるため注意が必要です。

🌿まとめ

贈与税は、「贈る側」「もらう側」どちらにとっても大切なルール。
まずは“年間110万円までは非課税”という基本を押さえ、正しく理解しておくことで、後悔のない資産の渡し方ができます。
次章では、この贈与税と相続税の違いを、より実践的に比較していきましょう。

第2章：贈与と相続の違い — どちらが有利かを整理

「財産を渡すなら、生きているうち？ それとも亡くなってから？」
これは、多くのご家庭が一度は抱く疑問です。
“生前贈与”と“相続”——どちらにもメリットとデメリットがあり、税の仕組みも大きく異なります。
ここでは、両者の違いを分かりやすく整理し、賢い選択のための考え方をお伝えします。

① 課税のタイミングの違い

まず、両者の最も大きな違いは「いつ課税されるか」です。

区分	贈与税	相続税
課税のタイミング	生前に財産を受け取った時	亡くなった時（相続発生時）
納税義務者	もらった人（受贈者）	相続人や受遺者

② 控除額と税率の違い

項目	贈与税	相続税
基礎控除	年間110万円／人	3,000万円＋600万円×法定相続人の数
税率	最大55％（高め）	最大55％（ただし控除が大きい）

一見すると「相続のほうが有利」に思えるかもしれません。
しかし、贈与税には“時間を味方につけられる”という強みがあります。

③ 財産を渡す相手の自由度

相続は、法律で定められた法定相続人（配偶者や子など）にしか基本的に財産を渡せません。
一方で、贈与は“誰にでも”自由に行えます。
たとえば、孫、子の配偶者、親友、ボランティア団体など、贈与者の意思で柔軟に支援できるのです。

④ 税負担だけで判断できない“もうひとつの視点”

贈与は「自分で時期と相手を決められる」ため、資産の種類やタイミングをコントロールできます。
たとえば——

• 将来値上がりしそうな株式や土地を早めに贈与しておけば、その後の値上がり分は相続財産に含まれません。
• 若いうちに不動産を名義変更しておけば、家族がローンを組みやすくなるなど、実生活面でもメリットがあります。

⑤ まとめ：贈与と相続は“どちらが得”ではなく“どう使い分けるか”

• 相続は、一度きりの大きな非課税枠で「まとめて渡す」制度。
• 贈与は、毎年コツコツと「計画的に移す」制度。
  どちらにも役割があり、両方を上手に組み合わせることで、最も効果的な資産承継が可能になります。

第3章：2024年改正で変わる！「暦年課税」と「相続時精算課税」の使い分け

贈与税の仕組みには、大きく2つの制度があります。
一つは毎年の贈与に対して課税される「暦年課税」。
もう一つは、生涯を通じた大きな贈与を前提に、最終的に相続時に精算する「相続時精算課税」。

2024年の税制改正では、この2つのバランスが大きく変わりました。
「どちらを選ぶか」で、節税効果も将来の家族関係のスムーズさも大きく違ってきます。

① 暦年課税 ― コツコツ贈与の王道ルート

特徴と仕組み

「暦年課税」は、最も一般的で、特別な手続きをしなくても自動的に適用される制度です。
1月1日〜12月31日までの1年間に受け取った贈与額の合計から、110万円を差し引いて課税します。

たとえば、子ども3人・孫2人の5人に毎年110万円ずつ贈与すれば、
合計で550万円、10年間で5,500万円を非課税で資産移転できます。

注意点：定期贈与とみなされないように

ただし、毎年同じ日に同額を贈与し続けると、
「最初から長期の贈与を約束していた」と判断され、まとめて課税される（定期贈与扱い）ことがあります。

💡対策例：

• 毎年贈与契約書を作る
• 金額や振込日を少しずつ変える
• 銀行振込などで証拠を残す

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7年ルール（生前贈与加算）に注意

相続開始前7年以内の贈与は、相続財産に加算されます。
つまり、「亡くなる直前の駆け込み贈与」は、もう節税になりません。

ただし、2024年改正では“緩和措置”もあり、
3年超〜7年以内の贈与分のうち100万円までは持ち戻し不要となります。

② 相続時精算課税 ― まとめて渡す＋後で清算する制度

仕組み

「相続時精算課税」は、60歳以上の親や祖父母が、18歳以上の子や孫に対して贈与するときに選択できる制度です。
贈与時には2,500万円まで非課税。それを超えた部分だけ、一律20%で贈与税が課されます。
そして贈与者が亡くなったとき、過去の贈与分を相続財産に合算して相続税を計算します。

つまり——

贈与税を「いったん保留して、最後にまとめて精算する」仕組みです。

改正ポイント（2024年〜）

大きな変更が2つあります👇

1. 年間110万円の基礎控除が新設（申告不要）
2. この110万円分は相続財産に加算されない

つまり、「相続時精算課税＋年間110万円」は、
子への確実な非課税贈与ルートとして最も有効になりました。

手続きと注意点

• 初めて利用する年の翌年3月15日までに「選択届出書」を提出する必要あり
• 一度選ぶと、暦年課税には戻れない（不可逆）
• 対象となるのは直系尊属（親・祖父母）→ 子・孫

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③ どちらを選ぶ？ — 贈与相手・目的で使い分ける

贈与先	おすすめ制度	メリット
子（将来相続人）	相続時精算課税	7年ルールを回避し、確実に非課税移転
孫（相続人でない）	暦年課税	相続加算の対象外、柔軟に支援できる
配偶者	暦年課税＋配偶者控除	2,110万円まで非課税可能（おしどり贈与）

④ まとめ：2024年以降の贈与戦略は「ハイブリッド型」

• 子には相続時精算課税で計画的に資産移転
• 孫には暦年課税で代々のサポートを継続
• 7年ルールを意識して早めにスタート

第4章：特例を活かして“非課税の幅”を広げる

「贈与税って、110万円を超えたら全部課税されるんでしょ？」
——そんな誤解をよく耳にします。

実は、国は“家族の支援を後押しする目的”で、
住宅・教育・結婚・子育てなど、特定の目的に使う贈与を非課税にできる特例をいくつも用意しています。

上手に使えば、一度に数百万円〜1,000万円を超える贈与が非課税になることも。
ここでは代表的な4つの制度を、実際の相談例を交えて解説します。

① 住宅取得資金の贈与 ― 最大1,000万円の非課税チャンス

制度の概要

直系尊属（親・祖父母）から、子や孫が自分の住む家を買う・建てる・リフォームするために贈与を受けた場合、最大で1,000万円（一般住宅なら500万円）まで贈与税が非課税になります。

さらに、暦年課税の110万円も併用できるため、
「最大1,110万円」まで非課税になるケースもあります。

適用条件（要点）

• 贈与を受ける人が18歳以上・所得2,000万円以下
• 贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅を取得し、年末までに入居
• 床面積50㎡以上240㎡以下の住宅

💡住宅性能が高い（省エネ住宅など）ほど、非課税枠が大きくなります。

② 教育資金の一括贈与 ― 最大1,500万円をまとめて贈れる

制度の概要

祖父母や親が、子や孫（30歳未満）に教育資金として贈与した場合、
金融機関の「教育資金口座」を通して支出すれば、1人あたり1,500万円まで非課税です。

（学校以外の塾や習い事分は、最大500万円まで）

利用方法(概要)

• 金融機関に専用口座を開設し、贈与金を入金
• 教育費を支払う際に領収書を提出
• 残高が30歳時点で残っていると課税対象になる

③ 結婚・子育て資金の一括贈与 ― 家族のスタートを応援

制度の概要

18歳以上50歳未満の子や孫が対象で、
結婚・出産・子育てのための資金として最大1,000万円まで非課税。
そのうち結婚関係費は上限300万円です。

主な使い道

• 結婚式・新居の敷金・引越費用
• 不妊治療費や出産費用
• 保育料・ベビー用品などの子育て費用

④ 夫婦間の居住用不動産贈与 ― 「おしどり贈与」で安心の住まい

制度の概要

婚姻20年以上の夫婦間で、
・自宅やその取得資金を贈与した場合、
→ 最大2,000万円＋110万円（暦年課税）＝2,110万円まで非課税。

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ポイント

• 贈与された不動産は、配偶者の居住用であることが条件
• 人生後半の「安心な住まいづくり」に有効
• 将来の相続財産を減らし、配偶者の生活基盤を守る効果も

⑤ まとめ：特例は「目的に合わせて選ぶ」ことが鍵

特例	上限額	対象・目的	注意点
住宅取得資金贈与	最大1,000万円	住宅の購入・建築	年内入居が必要
教育資金一括贈与	最大1,500万円	学費・習い事	領収書提出が必要
結婚・子育て資金贈与	最大1,000万円	結婚費用・出産・保育	専用口座＋証明書が必要
夫婦間贈与	最大2,110万円	居住用不動産	婚姻20年以上が条件

第5章：今から始める！“家族を守る”生前対策

贈与や相続の制度を知っても、
「実際にどう動けばいいのか」「いつから始めればいいのか」
ここが一番迷うポイントですよね。

生前対策は、“お金の準備”よりも前に、“家族との話し合い”から始まります。
今回は、のどかFP事務所が実際のご相談で大切にしている「4つのステップ」を紹介します。

① ステップ1：まずは「家族と話す」ことから

ポイント

• 生前対策の第一歩は“共有”です。
• 財産の有無よりも、「どんな想いで分けたいか」を家族に伝えることが大切。
• すべてを一度で決めようとせず、「方向性を話す場」を持つだけでも十分。

💡コツ：
家族全員を集めるのが難しい場合は、まず1人ずつと話すのもOK。
「もしもの時の希望」を、会話の中で少しずつ共有していきましょう。

② ステップ2：贈与契約書で“想いを形に残す”

ポイント

• 贈与契約は“口頭”でも成立しますが、税務署対策として書面化が安心。
• 金額・贈与日・贈与者・受贈者を明記。
• 各自の署名・捺印・日付を入れて保管。

💡おすすめ：
印紙代は不要なので、手書きやWord文書でもOK。
通帳の振込明細とセットで保管すれば、「確かに贈与した」証拠になります。

③ ステップ3：財産の整理と“見える化”を行う

方法

1. 現金・預金・証券・不動産などを一覧化
2. それぞれの名義・評価額・保管場所を記録
3. 「誰にどう残したいか」をメモしておく

💡
エクセルなどで管理するのもおすすめです。
FP事務所では、「資産整理シート」を活用して可視化をサポートするケースもあります。

④ ステップ4：専門家と伴走して“実行まで”支援を受ける

ポイント

• FPは“家族と制度の橋渡し役”。
• 税理士・司法書士・行政書士と連携することで、
  　相続登記・税申告・遺言書作成などもワンストップでサポート可能。
• “お金の話”を“安心の計画”に変えるのが、FPの仕事。

💡 のどかFP事務所コメント

「生前対策＝“節税対策”と考えがちですが、
本当の目的は“家族が安心して暮らしを続けられること”にあります。

お金の数字だけでなく、
ご家族それぞれの想いや背景を大切にしながら、最適な方法を一緒に考えていきましょう。」

🌿まとめ：最も大切なのは、“今、話すこと”

• 贈与や相続の制度は、知っている人だけが得をする世界。
• 「まだ早いかな」と思うタイミングこそ、ベストなスタートライン。
• 家族と話す → 書面に残す → 専門家に相談、この3ステップで安心を形に。

「大切なひとの未来を明るくする」
その第一歩は、“家族の想い”をつなぐことから。
のどかFP事務所では、ライフプランと贈与・相続の両面から、
あなたのご家庭に合った最適な“安心のかたち”をサポートします。